
ネット上で脅迫を受けたとき、「怖いけど何から始めればいいかわからない」と手が止まってしまう方は少なくありません。何もせずに時間が経つと、相手が投稿を削除して証拠が失われ、後から投稿者の特定や請求が難しくなるケースがあります。
ネット上で脅迫を受けても、証拠を確保すれば法的な対処手段が取れます。相手の特定・通報・刑事告訴まで、順を追って進められる手続きが整っているためです。ただし、証拠の保全方法や開示請求の手順によって結果が変わるため、このあと順番に整理します。
絶対にやってはいけないNG行動
- 相手に直接DMで反論・抗議する(新たな証拠として不利に使われるリスク)
- 脅迫された投稿を自分で削除する(証拠が消える)
- SNSで晒し返す(名誉毀損で逆に訴えられるリスク)
【要注意】焦ってやってはいけない法的リスク
脅迫を受けた直後は恐怖と怒りが入り混じり、衝動的に行動したくなります。しかし、以下の3つはいずれも状況を悪化させる可能性があります。
- 晒し返しによる名誉毀損リスク:相手の発言を公開の場に晒す行為が、具体的な事実を示して相手の社会的評価を低下させる内容であれば、名誉毀損罪(刑法第230条)に問われる可能性があります。脅迫被害を受けた側であっても、晒し方次第では加害者として扱われかねません
- 弁明DMが新たな証拠になるリスク:相手に直接連絡を取ると、そのやり取り自体が新たな証拠として使われる可能性があります。感情的な発言が記録されれば、あなた自身の立場を不利にしかねません
- 投稿削除が証拠隠滅になるリスク:脅迫された投稿を自分で削除してしまうと、肝心の証拠が消えます。スクリーンショットがあっても、原本のURLが消えていると証拠力が弱まります
なお、公益目的で事実を示した場合は名誉毀損が免責される余地もありますが(刑法第230条の2)、自分の判断だけで「これは公益だから大丈夫」と決めつけるのは危険です。晒し返しを検討する前に、まず弁護士に相談することを優先してください。
ネット脅迫被害を解決する4つのステップ
ステップ1:証拠の保全(今日やること)
何よりも先に、脅迫に該当する書き込みの証拠を確保してください。以下の3点をセットで保存します。
- スクリーンショット:投稿内容+相手のアカウント名+日時が写るように撮影する
- URL:投稿のURLをそのままコピーして保存する
- 投稿日時:「2026年5月20日 14:32」のように年月日と時刻まで記録する
可能であれば、画面録画(動画キャプチャ)も取っておくと、改ざんの疑いを減らす補強材料になります。プロバイダの通信ログには保存期限があり、時間が経つほど投稿者の特定が難しくなるため、早期の保全が勝負です。
ステップ2:プラットフォームへの通報・削除申請
証拠を確保したら、各SNS・掲示板の通報機能を使って投稿の削除を依頼します。
- X(旧Twitter):投稿右上の「…」→「ポストを報告」→「脅迫行為」を選択
- Instagram:投稿右上の「…」→「報告する」→「暴力や危険な団体」を選択
- 5ch:「削除要請板」へスレッドURLとレス番号を記載して削除依頼を投稿
通報した日時と通報内容のスクリーンショットも保存しておくと、後の手続きで「被害を認識して対処した」証拠になります。
まず証拠だけ確保しよう。スクショ・URL・日時のセット。それだけでいい。通報はその後で大丈夫。
ステップ3:発信者情報開示請求
投稿者を法的に特定するための手続きです。2022年のプロバイダ責任制限法改正により、裁判所への申立て一本で開示を命じてもらえる手続き(発信者情報開示命令事件)が利用可能になり、従来の仮処分+本訴の2段階手続きに比べて短期間で進められるようになりました。
弁護士に依頼する場合は、以下の情報を準備して相談してください。
- 「SNSで脅迫を受けたので、投稿者を特定したいです」と伝えること
- ステップ1で保存した証拠(スクリーンショット・URL・日時)を持参する
- 「どのような発言を受けて、どのように恐怖を感じたか」を時系列で説明できるようにしておく
ステップ4:刑事告訴・民事訴訟の検討
投稿者が特定できた場合、以下の2つの選択肢があります。
- 刑事告訴:警察への被害届・告訴状を提出する。脅迫罪は非親告罪のため、被害届の段階でも警察が動く可能性がある
- 民事訴訟:慰謝料や損害賠償を請求する。精神的苦痛の程度や業務への影響に応じて請求額が変わる
警察に相談する際は、「ネット上で脅迫を受けました。証拠を持参しています。被害届を出したいです」と明確に伝えてください。
警察・プラットフォームが動いてくれない場合の突破法
「警察に相談したが、事件として受理されなかった」「プラットフォームに通報しても削除されない」という場合は、次の手段を検討してください。
- 弁護士を通じた仮処分申立て:裁判所を通じてプロバイダに開示を命じてもらう手続き。弁護士費用は発生するが、プラットフォームが自主的に動かない場合の突破口になる
- 法務局への人権相談:法務局の人権擁護課では、インターネット上の人権侵害に関する相談を受け付けている。法務局からプロバイダに対して削除要請を出してもらえる場合がある
- 別の警察署への再相談:対応する警察官によって判断が異なるケースがある。最寄りの警察署で受理されなかった場合、サイバー犯罪に対応する専門部署(警察庁 サイバー犯罪相談窓口)への相談を検討する
相談先の一覧と次に検討すべきこと
- 警察庁 サイバー犯罪相談窓口 ― インターネット上の犯罪に関する相談
- 法テラス(日本司法支援センター) ― 無料の法律相談が可能(収入要件あり)
- 各地域の弁護士会 ― 30分程度の法律相談(有料の場合あり)
ネット脅迫の全体像を把握したい方は、法的リスク完全ガイドで脅迫罪の成立条件から対処法まで網羅的に確認できます。
参考法令・関連情報
- 刑法(e-Gov法令検索) ― 第222条(脅迫)、第230条(名誉毀損)
- 警察庁 サイバー犯罪相談窓口

