「派遣先の社員から無視されている」
「パワハラを相談したら契約を切られるのでは?」
このように派遣先での人間関係や理不尽な扱いに悩む派遣社員の方は決して少なくありません。
本記事では、派遣社員がパワハラを受けた際の正しい判断基準と相談窓口、そして今の契約を守りながらトラブルを解決するための具体的な対処手順をわかりやすく整理します。
結論:派遣先でのパワハラは派遣元(派遣会社)の責任にもなる
| 状況 | 判断傾向 |
|---|---|
| 派遣先の社員から日常的に無視される | アウト寄り |
| 派遣元にパワハラを相談しても放置された | アウト(派遣元の義務違反) |
| 相談を理由に次回の契約更新を断られた | 完全アウト(不利益取扱いの禁止) |
派遣社員は「派遣元(雇用主)」と「派遣先(指揮命令者)」という二重の関係の中で働いています。パワハラが発生した場合、直接の加害者である派遣先だけでなく、派遣元も雇用主として労働者を守る安全配慮義務を負っています。「派遣だから仕方ない」と諦める必要はなく、両者に対して適切な対応を求める権利があります。
派遣社員の場合、実際に指揮命令を受けて働いている「派遣先」の企業だけでなく、あなたを直接雇用している「派遣元(派遣会社)」にも、労働者を守る義務(安全配慮義務・職場環境配慮義務)があります。
そのため、パワハラが起きた際は、派遣先企業に対して指導や環境改善を求める正当な権利を派遣元が行使しなければならず、放置された場合は派遣元自体の責任を問うことが可能です。
こんな派遣先の状況で悩んでいませんか
- 派遣先の正社員から連日のように理不尽に怒鳴られている
- 自分だけ挨拶を無視されたり、業務に必要な情報を共有してもらえない
- 「これだから派遣は」「代わりはいくらでもいる」など雇用形態を見下す発言を受けた
- 契約外の雑用や、誰もやりたがらない汚れ仕事ばかりを露骨に押し付けられる
- 派遣会社(担当営業)に相談しても「契約を切られるから我慢して」と丸め込まれる
- 「口答えするなら、来月からの更新は白紙だ」と直接脅されている
このような状況は、派遣という雇用形態の「立場の弱さ」を利用した典型的なパワハラのパターンです。正社員と異なり「契約を切られるかもしれない」という不安が行動を妨げますが、相談したこと自体を理由に契約を打ち切ることは法律で禁止されています。
派遣という弱い立場を利用した悪質なパワハラは本当に多い。「契約を切られるかも…」と一人で抱え込まず、まずは法律でどう守られているかの基準を正確に知ることから始めよう。
どこからアウト?派遣社員を守る法律の基準
派遣先と派遣元の「双方が」責任を負う
労働施策総合推進法(いわゆるパワハラ防止法)および労働者派遣法により、職場のパワハラ防止措置義務は「派遣元」と「派遣先」の双方に等しく適用されます。これは派遣労働者を守る上で非常に重要なポイントです。つまり、派遣先の社員が加害者である事実はもちろんのこと、その事実を知っていながら見て見ぬふりをして放置した派遣元も、法律違反(使用者責任や債務不履行)に問われる可能性が高いということです。派遣先企業が「うちの社員ではないから直接の責任はない」と言い逃れすることは、現行法上一切通用しません。
派遣社員は「指揮命令は実際に働く職場の派遣先企業から受ける」「雇用契約自体は派遣元である派遣会社と結んでいる」という特殊な二重構造に置かれています。そのため、トラブルが起きた際には両者が互いに責任をなすりつけ合うような無責任なケースが散見されますが、法律上は両方に連帯して責任を追及する確固たる法的根拠が備わっています。派遣元は派遣先に対して強い態度で環境改善を求める義務があり、派遣先はそれを受け入れて自社の社員を処分・指導する義務があります。
相談を理由とした契約打ち切りは違法(不利益取扱いの禁止)
「パワハラを相談することで、契約更新の時期にクビ(雇い止めや契約打ち切り)になるかもしれない」という不安は、派遣社員にとって最大の足かせとなります。しかし、労働者がパワハラの事実を職場の相談窓口等に相談したり、解決に向けた行政側の制度を利用したことを理由に、解雇、雇い止め、降格、減給などの不利益な取り扱いをすることは法律で明確に禁止されています。
もし、パワハラ相談の直後に「業務態度」や「能力不足」など後付けの理由で契約を切られた場合、その雇い止め自体が法的に無効であると主張できる強い根拠になります。さらに悪質なケースでは、会社側の不法行為として慰謝料を請求できる可能性もあります。
どこからがパワハラかの分かれ目(3要件の整理)
法律上、単なる「嫌がらせ」や「厳しい指導」ではなく、「違法なパワハラ」として認められるためには、以下の3つの要件をすべて満たしている必要があります。
- ① 優越的な関係を背景とした言動であること(立場が上の正社員から派遣社員へ、という構図は典型例です)
- ② 業務上必要かつ相当な範囲を超えていること(到底業務目的に見えない罵倒や、暴力、度を越した長時間の叱責など手法の異常性)
- ③ 労働者の就業環境が害されること(精神的苦痛により、看過できない程度の支障が業務に出ること)
これらの詳しい判断基準や分類については、パワハラ裁判で会社が負けるパターンとは?実例から傾向を解説の記事で詳細にシミュレーションしています。ご自身の受けている被害がどの類型にあてはまるか、またそれが法的にアウトと呼べるレベルに達しているか、一度じっくりと照らし合わせて確認してみてください。
よくある派遣パワハラのケース別判定
派遣先の正社員から無視されるのはパワハラ?
業務に必要な連絡を意図的に行わない、定期的な会議や打ち合わせに一人だけ呼ばない、あるいは職場で露骨に無視する、懇親会から一人だけ意図的に外すような行為は、厚生労働省が定義する代表的なパワハラの類型のうち「人間関係からの切り離し」に該当し、極めて悪質なパワハラ(アウト)となる可能性が高いです。「手を出したり暴言を吐いているわけではないから違法ではない」と勘違いしている加害者は多いですが、これは完全な間違いです。
特定の一人からの無視であっても、その人物からの情報共有や承認がないと仕事が進められないような場合、業務上の適正な範囲を完全に逸脱した嫌がらせと認定されます。過去の裁判例でも、職場で意図的に孤立させる行為について、会社側の不法行為責任を認めて高額な慰謝料の支払いを命じた判決がいくつも存在します。
無視されている事実を客観的に証明するためには、こちらから送信した業務連絡のメールやチャットに連日返信がない履歴(既読スルーの履歴)や、無視された日時、具体的な状況、相手の態度を毎日記録した詳細な業務メモを継続的につけておくことが、後で非常に有効な武器になります。
契約外の雑用ばかり押し付けられるのは?
派遣契約書に明確に記載されていない仕事、特に私的な買い物や、他の正社員がやりたがらないゴミ捨て等の汚れ仕事ばかりを特定の派遣社員だけに強制することは、「過大な要求」にあたる可能性があり、アウトと判定される傾向が強くなります。
本来、派遣社員の労働内容は「労働者派遣契約書」によって厳格に定められています。その範囲を逸脱した業務指示は、パワハラである以前に「派遣法違反」となるリスクを含んでいます。反対に、能力に見合わない誰でもできるような簡単な作業をあえて命じ続ける「過小な要求」も, 嫌がらせの一種としてパワハラ要件を満たします。
派遣会社の担当営業が動いてくれない場合は?
前述の通り、派遣元にも職場環境に対する安全配慮義務があります。派遣社員から「派遣先でパワハラを受けている」と明確に相談があった場合、派遣元の担当営業は直ちに事実確認のヒアリングを行い、必要に応じて派遣先の苦情処理担当者に対して強く改善を申し入れるなど、働く環境を正常化する法的な責任を負っています。
しかし、現実には「派遣先企業は大事なお客様だから、クレームを入れて波風を立てたくない」という営業側の論理や理由で、担当営業が相談を意図的に放置したり、「あなたがもう少しうまく我慢すれば済むこと」「せめて次の契約更新時期までは耐えてほしい」と泣き寝入りを強要・隠蔽しようとするケースが後を絶ちません。
このような対応をとった場合、派遣先側のパワハラとは別に、派遣元企業の「雇用主としての債務不履行(安全配慮義務違反)」が明確に成立し、重大なアウト判断となります。担当営業個人のレベルで埒が明かない、あるいははぐらかされる場合は、派遣会社の本社内等に設置されている専用のコンプライアンス窓口や法務部門へ直接エスカレーション(問題の引き上げ)をする必要があります。「〇月〇日に相談したが放置されている」という経緯も必ず伝えてください。
派遣期間中にパワハラで精神的に限界な場合は?
「契約期間がまだ半年残っているが、パワハラの横行でうつ病になりそう」といった限界の状況において, 無理をして職場へ通い続ける必要はありません。民法の規定では、雇用期間の定めがある契約(有期雇用)であっても、「やむを得ない事由」がある場合は、直ちに契約の解除(退職)ができると定められています。
日常的な暴言や無視といった明確なパワハラがあり、派遣元に相談しても改善されない状況は、この「やむを得ない事由」に該当する可能性が非常に高く、会社側から違約金や損害賠償を請求されるような法的な謂れはありません。心身の健康を第一に考え、退職を申し入れることは正当な権利です。
派遣先の上司から直接「辞めろ」と言われたら?
派遣先企業の担当者や上司が、派遣社員に対して「明日からもう来なくていい」「お前はクビだ」と直接命じる権限は日本の法律上、一切認められていません。派遣社員の雇用主はあくまで「派遣元」であり、派遣契約そのものを解除(解雇や雇い止め)できるのは直接雇用関係にある派遣元のみだからです。派遣先が不満を抱いた場合にとるべき正しい対応は、「派遣元に対して改善を申し入れる」ことだけです。
派遣先が直接出勤を拒否したり解雇を言い渡す行為は、法的な権限を完全に越えた重大な越権行為であり、その発言自体が労働者の地位を不安定にさせ, 重大な精神的苦痛を与える悪質なパワハラとして認定されます。このような発言があった際は、その場で言い返して口論になったり、自己都合退職を認めるような退職届にサインに応じたりせず、速やかに派遣元に「派遣先から不当な就労拒否を受けた」と報告してください。
この場合、派遣先側の都合による就労拒否となるため、派遣契約が期間中である限り、派遣社員はそのまま待機するか、派遣元に対して法律で定められた休業手当を含めた確実な休業補償の支払いを求める交渉を進めるのがセオリーとなります。
証拠がない・派遣元が頼りない場合
明確な証拠も少なく、担当営業にも言い出しにくいと行き詰まりを感じてしまいますよね。まずは以下の行動から始めてください。
- 誰に、何を言われたか、日付・時間をスマホのメモに残す(手書きの日記でも可)
- 派遣元との面談や電話の内容を録音、またはメールで文面として事後確認する
- 社外の第三者機関(総合労働相談コーナーなど)へ秘密裏に相談予約を入れる
録音については、自分が会話の当事者である場合、一般的に違法とはなりません。また日時記録ノートは、手書きであっても日付が連続して記録されていれば証拠として認められやすいです。「完璧な証拠を揃えてから動く」必要はなく、今日から記録を始めることが最も重要な一歩です。派遣元との連絡はできる限りメールや書面で残し、口頭での約束は後から文書で確認するクセをつけておくと、後の交渉で大きな差が生まれます。
証拠の集め方や実際の裁判例については、パワハラの基準と6類型の全体像もあわせて確認しておくと、自分のケースの整理に役立ちます。
なお、派遣元との連絡はできる限りメールや書面で残し、口頭での約束は後から文書で確認するクセをつけておくと、後の交渉で大きな差が生まれます。「完璧な証拠を揃えてから動く」必要はなく、今日から記録を始めることが最も重要な一歩です。録音については、自分が会話の当事者である場合、一般的に違法とはなりません。また日時記録ノートは、手書きであっても日付が連続して記録されていれば証拠として認められやすい傾向があります。
派遣社員がパワハラから身を守るための対処手順
まずは派遣元の「担当営業」または「相談窓口」へ連絡
最初のステップは、あなたと雇用契約を結んでいる派遣元の担当営業に事実関係を正確に伝えることです。感情的にならず、記録しておいた「いつ、どこで、誰に、何をされたか」のメモを基に伝えてください。もし担当営業が「あなたが我慢して」と頼りない対応をした場合は、派遣会社内に設置されている専用の「ハラスメント相談窓口」やコンプライアンス部門へ直接連絡してください。「言った・言わない」のトラブルを防ぐため、電話ではなくメールなど後から履歴として確認できる文字の方法を強く推奨します。
相談の際は口頭だけでなく、できればメールや書面で内容を残すことが重要です。「〇月〇日に担当営業の〇〇氏に相談した」という記録が、後の交渉や労働局への申告時に有効になります。また相談窓口が機能していない場合や、担当営業がパワハラの事実を軽視する場合は、派遣元の上位部署や本社の相談窓口への連絡も選択肢に入れてください。
派遣元が動かない場合は「労働局」を利用する
派遣会社が適切に対応しない、あるいは派遣先に対して強く出られないという場合は、労働局の「総合労働相談コーナー」など行政の公的な機関で相談してください。客観的な記録があれば、行政から派遣会社や派遣先企業に対して「助言や指導」が入ることがあります。さらに「あっせん」という制度を利用すれば、労働トラブルの専門家が間に入り、会社側に行動を促す強いプレッシャーをかけることが可能です。
悪質な場合は弁護士への相談や「退職(契約解除)」を検討
精神的な苦痛が大きく出社が困難な場合や、うつ病などの診断書があり慰謝料(損害賠償)を請求したいと考える場合は、労働問題に強い弁護士への相談が最も有効な選択肢となります。また, これ以上今の職場で働くのが心身ともに難しい状況であれば、契約期間中であっても退職を申し入れることは正当な権利です。
弁護士への相談を検討する段階では、これまでに集めた録音・メモ・メール等をまとめて持参することで、「法的にどこまで争えるか」「損害賠償請求は可能か」という具体的な見通しを得ることができます。初回相談が無料の事務所も多いため、まずは状況を整理してもらうだけでも価値があります。
具体的な証拠確保の手順や、外部窓口への上手な相談の仕方については、パワハラの証拠を残す方法と相談先の正しい手順も参考にしてください。
まず違法か確認したい方へ
このケースがそもそもパワハラに当たるかを整理したい方は、「厳しい指導」はパワハラ?6類型で判定するアウトの分かれ目も参考にしてください。
まとめ:派遣先・派遣元の対応が不十分なら、外部窓口を頼ろう
派遣社員に対する悪質なパワハラは、職場で指揮を執る派遣先はもちろんのこと、雇用関係にある派遣元にも等しく問題解決の法的な義務が課せられています。契約打ち切りという理不尽な結果を恐れる気持ちは痛いほどわかりますが、一人で我慢を続けても職場環境が自然に改善することはほとんどありません。
一人で抱え込まず、日々の記録(メモや録音)を武器にして、外部の無料相談窓口や法的な専門家を利用し、自分の心身とキャリアを守る行動を恐れずに起こしましょう。必ず解決の糸口、あるいは次へ進むための正当な権利が見つかるはずです。
派遣という立場は、正社員と比べて「言いにくい」「動きにくい」という心理的な壁が高くなりがちです。しかし法律上は派遣社員も正社員と同様にパワハラから守られており、派遣元・派遣先の双方に対して適切な対応を求める権利があります。一人で抱え込まず、まずは記録を残すことから始め、必要に応じて外部の専門機関を積極的に活用してください。
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パワハラはどこから?違法になる基準と6類型をわかりやすく整理
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パワハラの証拠を残す方法と相談先の正しい手順
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参考法令・関連情報
- 労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律
- 労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律
- 厚生労働省「あかるい職場応援団」ハラスメント対策ポータルサイト
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