
SNSで自分になりすましたアカウントを見つけた。あるいは、つい出来心で他人のフリをするアカウントを作ってしまった。どちらの場合も「これって犯罪になるの?」と気になるのは当然です。結論から言えば、偽アカウントを作ること自体が即座に犯罪になるわけではありませんが、その使い方次第で複数の罪に問われる可能性があります。
このガイドでは、なりすまし行為に関係する法律の全体像と、被害者・加害者それぞれの行動指針を整理します。
なりすまし行為に関係する法律の全体像
なりすまし=不正アクセスとイメージする人は多いですが、これは正確ではありません。不正アクセス禁止法が主に適用されるのは、他人のIDやパスワードを使って無断でログインした場合や、他人のパスワードを不正に取得・保管した場合などです。偽のアカウントを新しく作成する行為自体は、この法律の直接の対象とはなりにくいのが実情です。
なりすまし行為が法的に問題になる場面は、主に以下の5つの法律・権利と関わります。
不正アクセス禁止法:他人のアカウントに侵入した場合
他人のIDやパスワードを使って無断でログインした場合や、他人のパスワードを不正に取得・保管した場合などに適用されます。偽のアカウントを「新たに作る」のではなく、既存のアカウントを「乗っ取る」行為や、ログイン情報の不正入手が主な対象です。
名誉毀損罪:なりすまし投稿で評価を下げた場合
なりすましアカウントから、対象者の社会的評価を低下させるような投稿をした場合に名誉毀損罪が成立する可能性があります。本人のフリをして「自分は過去に犯罪をした」と投稿するようなケースが典型例です。
偽計業務妨害罪:企業になりすまして業務を妨害した場合
飲食店や企業の公式アカウントを装って虚偽の情報を発信し、営業に支障をきたした場合は偽計業務妨害に該当しうる行為です。「本日臨時休業」などの虚偽告知で実害が出た場面で問題になりやすい傾向があります。
詐欺罪:なりすましで金銭を詐取した場合
有名人や知人になりすまして金銭を要求するケースは詐欺罪に該当し得ます。近年はSNS上での投資詐欺やロマンス詐欺にもなりすまし手法が多用されています。
民事上の権利侵害:プライバシー権・アイデンティティ権
刑事罰の対象にならなくても、なりすまし行為が民事上のプライバシー権侵害に該当し、損害賠償を請求されるケースがあります。近年は、「自分が自分であること」を守るアイデンティティ権という概念も注目されつつあります。
ポイント:「偽アカウントの作成」自体では罪になりにくいが、「誰かのフリをして発信する」「他人のアカウントに侵入する」「金銭を詐取する」など行為の内容によって、名誉毀損・不正アクセス禁止法・詐欺罪など複数の罪が適用されうる構造です。
ケース別シミュレーション:アウト・グレー・セーフの判定
なりすまし行為がどの法律に抵触するか、代表的なシチュエーションで確認しましょう。
| シチュエーション | 法的判定 | 具体的な解説 |
|---|---|---|
| 元恋人になりすまし、恥ずかしい投稿をする | アウト | 対象者の社会的評価を下げる投稿→名誉毀損。写真使用は肖像権侵害も。 |
| 企業の公式を装い「閉店のお知らせ」を投稿 | アウト | 虚偽情報で営業に支障→偽計業務妨害。民事賠償も高額化しやすい。 |
| 有名人のパロディアカウント(「パロディ」と明記) | グレー | パロディと明記し誤認の余地がなければ問題化しにくい。ただし内容次第で名誉毀損の可能性も。 |
| 同僚のIDとパスワードでSNSにログイン | アウト | 不正アクセス禁止法に直接該当。投稿内容を問わず違法。 |
| 完全に架空の人物としてアカウントを作成・運用 | セーフ寄り | 実在の誰かのフリをしていなければ、なりすましには該当しにくい。 |
| 有名人のファンアカウント(本人と誤認される表記) | グレー | ファン活動でも本人と誤認される運営は問題化しうる。フォロワーが騙された場合は名誉毀損やプライバシー侵害も。 |
被害者がとるべき行動の全体像
なりすまし被害に遭ったとき、まず重要なのは冷静な対応です。感情的に晒し返すと、逆に自分が法的責任を問われるリスクがあります。
STEP1:証拠を保全する
偽アカウントのプロフィール画面、投稿内容、URLをスクリーンショットで保存してください。タイムスタンプが入る状態で記録することが重要です。
STEP2:プラットフォームへの通報・削除申請
多くのSNSには「なりすまし報告」の専用窓口があります。本人確認書類の提出を求められることもありますが、正規の手続きを踏めば比較的早く対応してもらえるケースが多いです。
STEP3:発信者情報開示請求
削除だけでなく相手を特定して損害賠償や刑事告訴を検討する場合は、情報流通プラットフォーム対処法(旧プロバイダ責任制限法)に基づく発信者情報開示請求が必要です。具体的な手順は実務手順の記事で詳しく解説しています。
「なりすましって犯罪でしょ?すぐ警察行けばいいよね?」って思ってる人、ちょっと待って。実は警察がすぐ動けるのはアカウント乗っ取り(不正アクセス)みたいな明確な犯罪類型だけで、偽アカウント作成だけだと「それ民事でやってください」って言われるケースが多いんだ。だから焦って警察だけに頼るんじゃなく、まずは証拠を固めて「民事と刑事、どっちで攻めるか」を整理することが大事だよ。
加害者側が認識すべきリスク
「冗談のつもりだった」「すぐ消すつもりだった」という弁解は、法的には通用しにくいのが現実です。なりすまし投稿は、一度でもスクリーンショットで保存されれば証拠として残り続けます。
特に問題になりやすいのは以下のパターンです。
- 嫌がらせ目的で特定の個人になりすまして恥ずかしい投稿をする
- 企業や店舗になりすまして虚偽の情報を流す
- なりすましアカウントを利用して金銭を要求する
いずれも匿名のつもりでも発信者情報開示請求によって身元が特定される可能性があり、損害賠償請求や刑事処罰に発展するリスクがあります。
「匿名だからバレない」って思ってる人は、ログ(記録)の寿命をナメすぎだよ。プラットフォーム側のIPアドレス記録、プロバイダの接続ログ——こういうデータは一定期間は残っていて、法的手続きを踏めば開示される仕組みになっている。「時間が経てば安全」なんてのは、セーブデータ(記録)が勝手に消えると思い込んでいるようなもの。自分が打った行動記録は消えないっていう前提で動いた方がいい。
よくある質問(Q&A)
Q. パロディアカウントと違法ななりすましの違いはどこですか?
A. パロディであることが明記され、本人と誤認される余地がなければ問題化しにくい傾向があります。ただし、パロディを名目にしていても内容が名誉毀損に当たる場合は別問題です。個別の判断は状況によるため、不安がある場合は専門家に相談してください。
Q. なりすましアカウントを見つけたら、まず何をすべきですか?
A. 最優先は証拠の保全です。偽アカウントのプロフィール・投稿内容・URLのスクリーンショットを保存してから、プラットフォームへの通報に進んでください。削除後は証拠が消える可能性があるため、順番が重要です。
Q. 偽アカウントを作ったが投稿は一切していません。罪になりますか?
A. アカウントの作成自体で直ちに犯罪が成立するケースは限定的ですが、他人の写真やプロフィール情報を無断使用している場合は肖像権やプライバシー権の侵害として民事責任を問われる可能性があります。状況によって判断が変わるため、心配な場合は早めに専門家へ相談することをおすすめします。
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なりすまし行為は軽い気持ちで始めても、法的な問題に発展する可能性があります。被害者であれば証拠を押さえた上で適切な手続きを選ぶこと、加害者側であれば早期に行為をやめ必要に応じて専門家に相談することが、状況を悪化させないための第一歩です。
参考法令・関連情報
- 刑法(e-Gov法令検索)
- 不正アクセス行為の禁止等に関する法律(e-Gov法令検索)
- 情報流通プラットフォーム対処法(旧プロバイダ責任制限法)(e-Gov法令検索)
- インターネット上の違法・有害情報に対する対応(総務省)
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