プライバシー権
意義
プライバシー権とは、従来において「私生活をみだりに公開されない権利」として理解されてきました。これは、下級審査の判例ですが、侵害行為の差止めや損害賠償請求が認められました。
そして、現在のプライバシー権は「自己に関する情報をコントロールする権利」として、自己情報の開示や訂正等を積極的に請求していくという側面が重視されています。これを、情報プライバシー権といいます。
判例
プライバシー権が認められたものとして代表的な判例は、指紋押捺拒否事件判決(最判平7.12.15)です。
指紋押捺拒否事件判決
アメリカ合衆国国籍を持ち、ハワイに住むXさんが、日本で新規外国人登録をしようとしました。
しかし、提出書類に指紋押なつを拒否したため、外国人登録法違反でXさんが起訴されてしまった事案です。
この事案に対して裁判所は、採取された指紋の利用方法次第では個人の私生活あるいはプライバシーが侵害されると判断しました。したがって、個人の私生活上の自由の一つとして、何人もみだりに指紋の押なつを強制をされない自由のを有するとしました。
つまり、プライバシー権を人権として認めた瞬間です。
ただし、Xさんの違反した外国人登録法は立法目的には十分な合理性があり、必要とされる法律でした。したがって、このような法律のやり方であっても、一般的に許される限度を超えない方法ではなかったと裁判所は判断し、外国人登録をする際のXさんは指紋押なつをする義務があります。
他の判例
他に、プライバシー権として一定の法的保護があると認めた判例として、前科照会事件(最判昭56.4.14)や早稲田大学名簿無断提出事件(最判平15.9.12)があります。
ここで重要なのは、プライバシー権が直接争れたのではなく、法的保護の余地があると認めた判例です。つまり、みだりに公開・開示されない権利を人権として認めるべきかが直接的な争点ではありません。
前科照会事件
前科照会事件で問題となったのは、Xを解雇した会社の弁護士がXの弱みを握るために、弁護士会を通じて市にXの前科・犯罪経歴の照会を求めました。ここまでなら特に問題がありませんが、市長が弁護士の請求に応じて回答しました。これをプライバシー権の侵害だとして、市長に損害賠償請求しました。
これに対して裁判所は、たとえ犯罪者であったとしても、前科が公開されると社会更生が難しくなると考えました。したがって、前科等ある者はみだりに公開されない法律上の保護に値する利益を有するとしました。
つまり、前科は人の名誉・信用に直接関わるために、相当の合理的な理由なく回答してはいけないという判断です。よって、市長が漠然と弁護士会の照会に応じ、前科等の情報を報告することは公権力の違法な行使として、Xの損害賠償請求を認めました。
早稲田大学名簿無断提出事件
早稲田大学名簿無断提出事件では、講演会に出席する傍聴者の単純な情報を、防犯上の理由で調査して、同意を得ずに警視庁へ名簿を提出した事案です。
裁判所は、単純な情報であっても、一応は個人情報なので開示されたくない気持ちを保護すべきであると考えました。したがって、今回もプライバシーに係る情報として法的保護の対象となるとしました。
肖像権
意義
肖像権とは、承諾なしにみだりに姿を撮影されない自由をいいます。
裁判所は、肖像権を実質的権利として認めています。
判例
京都府学連事件(最大判昭44.12.24)
Xさんはデモ行進をしていましたが、無断で警察官に撮影されたため傷害を与えました。そして、傷害を与えたことでXは公務執行妨害で起訴されました。しかし、Xは令状も同意もなく撮影した警察官は肖像権に違反するため、適法な職務遂行にあたらない主張をした事件です。
この主張に裁判所は、何人も承諾なしに姿を撮影されない自由を持つものだとしました。そして、警察官が正当な理由なしに撮影することは憲法13条の趣旨に反して許されないと断言しました。したがって、正当な理由がない撮影は許されないため、この判断で肖像権が認められることになりました。
ただし、今回の場合はデモ行進で事件が起こりそうなものであったため、証拠保全の必要性および緊急性がありました。よって、Xさんの肖像権が侵害されたとしても憲法に違反せずに、公務執行妨害罪として罰せられます。
オービスによる撮影事件(裁判昭61.2.14)
オービスとは、道路でスピード違反をした際に撮影する装置です。ここで争れたのは、スピード違反での撮影は問題なくても、同乗者は撮影してもいいのかが問題となりました。
結果として、運転手の近くにいるため除外できないので、撮影されてもやむを得ないとされました。
その他の新しい人権
名誉権
名誉は、個人が尊厳をもって生きるために欠かせないものです。したがって、判例も名誉毀損の救済方法として、損害賠償や名誉回復のための処分を求めることができます。
そして、「人格権としての名誉権」に基づいて書物等の差止請求をすることができます。
環境権
環境権は、よりよい環境のなかで生きていく権利です。
しかし、判例上環境権を人権として認めたものはありません。
自己決定権
自己決定権とは、自己の個人的な事柄について、公権力から干渉されずに自ら決定する権利です。
有名な判例は「エホバの証人」輸血拒否事件(最判平12.2.29)です。
これは、手術する際に輸血をせずにするように医師に頼んでいましたが、緊急事態が生じて輸血を使った手術をしました。
このことに対して、損害賠償を請求した事件です。裁判所は、親族の誰にも相談せずに、患者の手術を受ける意思決定をする権利を奪ったことによる精神的苦痛を慰謝すべきとして、損害賠償責任を負うとしました。
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