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特別権力関係の人権理論

 

特別の法律関係にある者とは、一般人とは違い、公権力と特別の関係にある人のことです。
例えば、在監者や公務員がこれにあたります。

 

特別の公法上の原因によって成立する公権力と私人との法律関係を「特別権力関係」と呼び、その場合は公権力と私人の間には以下のような法原則が妥当します。

法治主義の排除 公権力は支配権があるため、法律の根拠なしに特別権力関係にある私人を支配することができる。(命令・懲戒によって)
人権保障の排除 公権力は、特別権力関係にある私人に対して、一般国民として有する人権を、法律の根拠をなくして制限することができる。
司法審査の排除 特別権力関係の内部での行為は、原則として司法審査にならない。

 

以上を特別権力関係の理論といいます。

 

しかし、国会を唯一の立法機関として法の支配の原則や基本的人権を尊重する現憲法では、この理論は支持されていません。また、この理論は特別権力関係として違いがあるはずの公務員や在監者を、一律に公権力に服するとして認識される点に問題があります。

 

そこで、この理論を肯定するため様々な修正されました。
しかし、現在では特別権力関係の理論ではなく、人権制約の根拠や程度を各法律の個別に考えるべきだとされています。
こういった、個別に人権制約を考える理論で代表的なのは、全体の奉仕者論や憲法秩序の構成要素論があります。

 

 

全体の奉仕者論

 

憲法15条2項が、公務員を全体の奉仕者と規定していることを根拠として、公務員等の人権制限を可能とするものです。ただし、合理的で必要最小限度の制限でなくてはなりません。判例として、猿払事件が挙げられます。

 

 

憲法秩序の構成要素論

 

人権の制限は憲法で規定されている場合か、前提されている場合に限り有効とします。そうなると、公務員等の人権制約の根拠は憲法の構成要素とならなければならない理論です。

 

 

公務員の人権

 

公務員の人権で問題となるは、政治活動の自由や労働基本権の制約です。

 

 

政治活動の自由

 

裁判所によると、公務員の政治的中立性を損なう恐れがある政治的行為を禁止しても、それが合理的で必要やむをえない限度であれば憲法に違反しないとしました。
また、公務員の職種・職務権限・勤務時間の内外・国の施設の利用の有無等を区別することなく、政治活動を一律に禁止しても合理的でやむをえない限度の禁止だと裁判所は判断しました。(最大判昭49.11.6猿払事件)

 

猿払事件において、公務員の政治活動禁止が合理的でやむをえない限度であるかを判断するには以下の基準が示されました。
@禁止の目的が正しいか
A@の目的と禁止される政治行為の関連性があるか
B政治行為を禁止することによって得る利益と禁止することによって失う利益の均衡(比較衡量論)

 

公務員の政治活動の自由の制約の判例は、他に寺西判事補事件(最大判平10.12.1)や国家公務員法違反被告事件(最判平24.12.7)があります。

 

 

労働基本権

 

労働者は、雇用主から不当な扱いをされても対抗できるように労働基本権が認められています。
そして、労働基本権として、団結権・団体交渉権・団体行動権が憲法28条で保障されています。公務員であっても労働基本権の保障は及びます。

 

しかし、公務員は例外的に労働基本権は制限されています。
なぜなら、公務員は他の労働者と違って国民全体の利益を図るために働きます。

 

例えば、市役所に勤める公務員が労働基本権に基づいてストライキを起こすとどうなるでしょうか。市役所が機能しなくなると、急いで出さなければならない書類がもらえずに大変困りますよね。
したがって、公務員にも労働基本権の保障はありますが、例外的に制限されています。特に、団体行動権はどのような公務員でも全面的に認められていません。

 

 

在監者の人権

 

在監者には、居住移転の自由等が制限されます。制限される中でも、これは認められてもよいのではないかが問題となった判例があります。

 

ちなみに、在監者であっても、必ずしも犯罪者として服役し、働いている人ではありません。判決が決まらずに留置所・拘置所に入れられているだけの人も含まれ、その人たちは拘束されるという制限があるものの、ある程度の自由は認められてます。

 

 

喫煙の自由

 

在監者に喫煙を禁止しても、必要かつ合理的な制限であると裁判所は判断しました。

 

なぜなら、喫煙を許すと、証拠を燃やしたり火事を起こす危険があり、拘禁の本質的目的を達成をすることはできないからです。また、喫煙の自由を制約したとしても、絶対保障しなければならないものでなく、憲法13条の幸福追求権に違反するものでないとしました。

 

 

閲読の自由

 

新聞等の読み物を制限することは一般的に認められていません。しかし、監獄内の規律や秩序の維持が難しくなるような障害が発生すると予想されれば制約してもよいとされます。

 

 

例えば、監獄に収容されているXは自分のお金で新聞を購読していました。しかし、ある日何かの事件に関連する記事が墨で塗りつぶされていました。この件に関して、Xは憲法に違反するとして訴訟を提起しました。

 

本来監獄にいれば、規律維持のために相当の制限を受けることは覚悟しなければなりません。しかし、裁判所は閲読の規制は、規律が乱れる一般的、抽象的なおそれだけでは規制は許されないとしました。ただし、閲読を許すと監獄内で囚人が暴走し、監獄内の規律及び秩序の維持が放置することのできない障害が発生する相当の蓋然性(がいぜんせい)があると認められる必要があるとしました。

 

今回の場合、閲読を許すと囚人が暴れる可能性があるため、墨で塗りつぶしても必要かつ合理的な範囲の規制だと判決を下します。(最大判昭58.6.22よど号ハイジャック記事抹消事件)

 

 

つまり、閲読の自由を規制するには一般的・抽象的な予想で規制することは認められません。
規制するには、放置すれば障害が発生するという相当の蓋然性がなければなりません。

 

 
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