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私人間の人権保障の必要性

 

憲法は、国家の基本秩序や国家と国民の関係を規律法です。したがって、私人相互の関係は当事者の意思によって規律する私的自治の原則に委ねられてきました。

 

しかし、現在は企業・マスコミ等の大きな権力を持つ私人が、一般私人の人権を脅かす問題が生まれました。そこで、このような社会問題に何らかの形で憲法の規定を適用し、救済を図る必要が出てきました。

 

人権保障 

 

 

 

学説

 

無効力説

 

人権規定は特段の定めがあるばあいを除き、私人間には適用されないとする説です。
しかし、この説だと社会権力による人権侵害の防止の要請に十分に対応できないという批判があります。

 

 

直接適用説

 

憲法の人権規定が、私法関係にも直接適用されるとする見解です。

 

憲法は、国民の社会生活のあらゆる領域において全面的に尊重・実現されるべきものです。
しかし、直接適用説によると私人間の契約などが憲法の規定に反していれば直接憲法によって違憲判断されることになります。そうすると、侵害された側は救済されることになりますが、侵害した側も私人で人権を有するため、逆にこの者の人権が反対に制約されることになります。憲法が私的自治の原則を侵害する結果となります。
また、憲法がなんでもかんでも介入すると、国家権力に対抗するという人権の本質を希薄化する結果を招く恐れがあります。

 

 

間接適用説(通説)

 

私法の基本的解釈に、憲法の趣旨を取り組んで適用する説です。これにより、憲法の趣旨のある私法を私人間に適用することで、憲法を間接的に適用します。
ただし、憲法の文から直接的に私人間に適用されると考えられるものは除きます。

 

つまり、間接適用説もいくつかの条項は私人間に直接適用することを認めています。
(投票の自由・奴隷的拘束の禁止・家族生活における個人の尊厳と両性の平等・児童の酷使の禁止・労働者基本的)

 

間接適用説は、憲法というドリンクをそのまま飲むのではなく、私法の一般条項によって薄めて飲むイメージです。

 

 

判例

 

私人間に憲法が間接適用された代表的な判例として、三菱樹脂事件(最大判昭48.12.12)が挙げられます。

 

三菱樹脂事件は、学生がデモ活動をしていたことが会社にばれて採用拒否された事件です。ここで、デモ活動で採用拒否するのは思想良心の自由を侵害するのではないかが問題となりました。

 

しかし、裁判所の判断は、会社がデモ活動をしていた学生の採用を拒否しても問題なしとしました。なぜなら、会社側も営業の自由があるため学生と契約を結ぶ際も自由に決定することができるからです。
したがって、学生の思想良心の自由が侵害されたとしても会社の行為は違法となりません。

 

ここでポイントとなるのは、裁判所は憲法を公権力と私人の関係を規律するものとしながら、私的自治に関する民法1条や90条に憲法の考えを運用するとも判断しています。
つまり、民法の一般条項に憲法の趣旨が及ぶという間接適用説を裁判所は用いました。
したがって、社会的に限度を超える侵害がなければ、憲法の考えで救済されることはありません。

 

 

間接適用説を用いた他の判例は、昭和女子大事件(最判昭49.7.19)、百里基地訴訟(最判平1.6.20)、日産自動車事件(最判昭56.3.24)があります。

 

百里基地訴訟は少し特殊で、当事者が国と私人の関係で間接適用説を用いることです。なぜなら、私人と対等の立場で行う取引は、憲法ではなく私法によって規律すべきだと裁判所は判断したからです。

 

 

 
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