役に立つ法律の情報・実用法学-行政法、民法など、大学課程の法学

効力の維持とは

 

普通なら、瑕疵のある行政行為は無効、あるいは取り消されます。

 

しかし、法的安定性や行政経済の観点によって、瑕疵のある行政行為の効力を維持することが認められる場合があります。
それは、以下のような場合です。
@瑕疵の治癒
A違法行為の転換
B理由の差替え

 

つまり、違法な行政行為であってもわざわざ否定する必要が感じられない場合、行政行為の効力維持は公益の確保につながるため取り消されるとは限らない、ということです。

 

 

瑕疵の治癒

 

瑕疵の治癒とは、行政行為に瑕疵があっても、そのあとの事情によって欠けていた要件が満たされるときがあります。
そういった場合に行政行為を適法であること、として効力を維持することを瑕疵の治癒といいます。

 

具体例として、農地買収計画があったとします。ところが、この計画に反対するAさんがいました。
計画に反対するべく、Aさんは農地委員会に訴願を提起しました。

 

しかし農地委員会は、この訴願を無視して農地買収を承認、その後Aさんの土地は買収されました。
そして、買収後に訴願の棄却が行われました。
よってAさんは、訴願に対して棄却をせずに買収をする行為は瑕疵があり無効、として裁判所に出訴しました。

 

このことに対する裁判所の判断は、訴願があるにもかかわらず決定・裁決せずに承認・買収されたとしても、その後に裁決したのならば問題はない、としました。
つまり、訴願に対する裁決をせずに買収を承認した(今は瑕疵ありの状態)としても、その後に裁決をすれば瑕疵がなくなる(瑕疵の治癒)、ということです。

 

瑕疵の治癒 1 

 

 

以上のようなことが考えられる理由として、農地の買収は大量かつ迅速に行わなければなりません。
また、買収処分を取り消しても再度買収される可能性が高い、この土地の売り渡しを申請している第三者を保護する必要があることなどの理由により、瑕疵の治癒が認められたと考えられます。

 

一方で、瑕疵の治癒が認められない場合もあります。
例えば、法人税について確定申告をしたAさんがいましたが、税務署長は税が低すぎるとして増額更生処分を行いました。

 

しかしAさんは、増額更生処分に納得がいかないために国税局長に審査請求をしました。
この更生処分には、理由がはっきりしないという不備の瑕疵があり、Aさんは処分が全部取り消されると考えてました。

 

ところが、国税局長は一部は取り消す、という裁決をします。
さらに、この裁決により更生処分の瑕疵である理由がはっきりしないという点を、理由をはっきりとさせた詳細な裁決を行いました。
それでもAさんは、この更生処分の取り消しを求めて裁判所に出訴しました。

 

このことに対する裁判所の判断は、更生処分の時点で理由の不備に瑕疵があれば、その後審査請求による裁決によって明らかにされたとしても瑕疵は治癒されない、としました。

 

瑕疵の治癒 2

 

 

以上のようなことが考えられる理由は、処分の理由付記の目的は@処分の慎重・合理性を確保すること、A不服申立てなどの利益になることが目的だからです。
よって、のちの裁決で瑕疵が治癒される行為をしても、それは無駄であるということが考えられます。

 

 

違法行為の転換

 

違法行為の転換とは、ある行政行為に瑕疵があっても、別の行政行為としてみれば瑕疵がない場合に、別の行政行為としてその行政行為の効力を維持することをいいます。

 

ただし処分の同一性、すなわち行為をやり直しとしても、また同じ行為をしてしまうという繰り返しの手続を避ける場合にしか認められません。
例えば、とある村の農地委員会が個人の土地を買収するためには、施行令X条に基づいている請求が必要でした。
ところが、Aさん所有の土地を買収する際、請求がないにもかかわらずあるものとして農地買収計画を定めました。この計画に不服があるAさんは県の農地委員会に違法だと請求しました。

 

しかし県の農地委員会は、Aさんのケースは同施行令Y条を適用することによって施行令X条に基づいている請求を必要としない、として計画を妥当であるとしてAさんの訴えを棄却しました。
それでも、この裁決をAさんは認めずに取消しを求めて裁判所に提起しました。

 

このことに対する裁判所の判断は施行令X条によって定めた農地買収計画を、同施行令Y条によって維持することは違法ではない、としています。

 

 

理由の差替え

 

理由の差替えとは、ある行政行為について理由を変更することで、その行政行為の効力を維持することをいいます。
これは情報公開法で認められた判例があります。

 

 
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