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瑕疵の無効基準

 

先ほど、無効と取消の違うところは、「重大かつ明白な瑕疵」があるか、ないかによって決まることをお話しました。それでは、どういったときに無効の基準が決定するのか、具体的に見ていきましょう。

 

 

重大明白説

 

取消・無効の区別基準としての通説は重大明白説です。

 

無効な行政行為が成立する要件は、@行政行為の違法性が重大であり、A行政行為の違法性の存在が明白であるということです。
これらを合わせて重大かつ明白な瑕疵といいます。

 

重大かつ明白な瑕疵

 

 

@重大性とは、相手方の事情などを考えた上で、個別的に判断することをいいます。
例えば、行政庁が権限を持ってないのに行った行為、書面でするべきなのに口頭で行った行為、申請が必要なのに申請なしに行った行為法律上必要とされている理由付記や聴聞を欠いて行われた行為などが重大かどうか判断されます。

 

A明白性には、一般的に外観上一見明白説によってわかります。

 

 

外観上一見明白説

 

外観上一見明白説とは、
「要件の誤認が何人の目にも明白であるというような場合」(最判昭和34.9.22)

 

「誤認であることが外形上、客観的に明白である…また、瑕疵が明白であるかどうかは、処分の外形上、客観的に、誤認が一見看取し得るものであるかどうかにより決すべきものであって、行政庁が怠慢により調査すべき資料を見落としたかどうかは、処分に外形上客観的に明白な瑕疵があるかどうかの判定に直接関係を有するものではなく…」(最判昭和36.3.7)

 

「客観的に明白ということは、…処分関係人の知、不知とは無関係に、特に権限ある国家機関の判断をまつまでもなく、何人の判断によっても、ほぼ同一の結論に到達し得る程度に明らかであること」(最判昭和37.7.5)
のような考え方をいいます。

 

つまり明白性とは、外形上客観的に明白であり、何人の判断によってもほぼ同一の結論に到達し得る程度に明らかであることが必要となります。
そして明白性の有無の判断には、行政庁が怠慢により調査すべき資料を見落としたかどうかは関係がない、ということにもなります。

 

 

明白性補充要件説

 

重大明白説では、無効な行政行為が成立する要件は重大かつ明白な瑕疵が必要であること、と説明しました。
しかし、著しく重大な違法性があるものの、それが少し見ただけでは明白とまでは言えない場合に、明白性の要件を満たさないからといっていっさいの無効を認めないとするのは、妥当な決断とは言えません。

 

よって、ある一定の場合には、明らかではない明白性ならば明白なしで無効とすることができる、のような考え方を明白性補充要件説といいます。

 

具体的な判例の説明として以下のようなものがあります
「第三者の利益を保護する必要性のないことから、違法性が一見して明白である必要はない」(最判昭和48.4.25)
「許可処分についての法的安定性や当事者・第三者の信頼保護の要請は、人間の生命・身体・健康および環境という権利利益が侵害される危険に比べればとるに足らないものである…違法の重大性があれば足り、明白性の要件は不要である」(名古屋高判平成15.1.27)

 

この場合明白性の要件は必要ありません。(明白性なしに無効)

 

 

無効基準まとめ

 

無効確認は、通常は取消訴訟の主訴期間が経過した後に無効確認訴訟などを提起することができます。
しかし、それでは長い期間が経過するため、行政行為の在りかたに対する国民の信頼を失い、国民に予知できない損害を与えるおそれがあります。

 

そこで、無効を認めるのに違法の重大性・明白性が必要であることとしました。(重大明白説)
また、第三者の信頼を保護する場合や国民の信頼保護よりも重大な権利侵害がある場合などについては、明白性の要件は必要ありません。(明白性補充要件説)

 

つまり、両説ともに無効が認められるには、基本的に違法の重大性と明白性を必要とします。
ただし、明白性補充要件説によれば、各事例を個別的に判断し、上記のような場合には例外的に明白性を必要としない、ということです。

 

 
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