公定力の概念
公定力とは、行政行為がたとえ違法であっても、権限のある行政庁または裁判所が取り消すまでは、有効なものとして扱われるという効力です。
ただし、違法が重大かつ明らかな場合は当然無効となります。
例えば、行政機関がAに対して違法な課税処分(行政行為)をした場合、この課税処分は公定力があることによって一応は有効となります。
しかし、それではAは納税しなければ滞納処分を受けることになってしまいます。(財産を差し押さえられ、競売されてしまう)
それではAが残念なので、Aはこの処分が違法であると考えるならば、取消訴訟や不服申し立てなどの手段によって、この違法な課税処分を適法に取り消すことができます。
つまり公定力は、違法な行政行為であっても適法に取り消されるまでは有効である、ということです。
なお、処分が明らかに違法かつ、その税が100万円課されるなどの重大である場合には、公定力に効力はありません。
この公定力を、明確に規定した法律は存在しませんが、判例・学説共に公定力を認めることに争いはありません。
公定力の根拠
法律による行政の原理によれば、違法な行政行為には効力が認められないはずですよね。
それでは、どうして行政行為に公定力が認められているのでしょうか。
今からその理由を説明していきます。
戦前では、国家が国民に対して強い強制力を持つことが前提とされており、公定力も当然に認められる、とされます。
行政行為は、権限のある行政庁が公益のため適法なものとして行政行為を行うのだから裁判判決と同様に権威があり(行政行為は国家権力があることと同等)、国民が何を言っても、取り消されるまでは有効とされてきたわけです。(自己確認説)
しかし、それではあまりにも権威主義的であると批判されました。
その結果、現在では取消訴訟の排他的管轄という考え方が一般的です。
取消訴訟の排他的管轄という考え方は、行政事件訴訟法3条2項の取消訴訟以外で行政行為の効力を否定することはできない、ということです。
法律がわざわざこのような制度を作ったのは、違法か適法であるかの判断は素人には困難なので、行政行為の効力を争うことができるのは、専門機関によって慎重な手続きでやるべきだ、とされてます。
よって、行政行為の効力を争うことができるのは、取消訴訟だけという意味があると解釈することができます。
つまり、行政行為を取り消すためには、原則として取消訴訟によらなければなりません。
これを前提とすると、行政行為の効力を否定することができるのは、裁判所や権限のある行政庁だけである考えることができます。
この考え方が、公定力につながります。
もし仮に、行政行為が簡単取り消すことができるようになればどうでしょうか。
この場合は、行政目的が実現できなくなってしまいます。
公定力の限界
公定力は、行政行為が関わるすべての場面で認められる効力かといいますと、そうではありません。
以下のような場面では公定力は働かないとされており、これを公定力の限界といいます。
@重大かつ明白な瑕疵のある行政行為
A国家賠償請求
B刑事裁判
@重大かつ明白な瑕疵のある行政行為
これは先ほど話したように、当然無効とされる行政行為に公定力はありません。
A国家賠償請求
違法な行政活動に対する金銭的救済制度として国家賠償請求があります。
もし仮に公定力が発生する状況で損害を受けた場合、通常は取消訴訟で公定力を排除してから賠償請求をしなければなりません。
しかし、違法な行政行為によって損害を受けたことを理由として、国家賠償請求訴訟を提起する場合は、あらかじめ行政行為を取り消す必要はないとされています。
B刑事裁判
刑事裁判において、公定力は効力を発しません。
例えば、営業停止処分に違反した者は刑罰が科せられることがあります。
このように、行政行為の処分に違反した場合に刑罰を科すためには、刑事裁判手続を経る必要があります。
しかし、それでは疑問が生まれます。
その裁判で被告人が無罪を主張をする場合、行政行為に公定力があるから取消訴訟などの別の手続で公定力を排除しておく必要があるのか?
この場合、刑事裁判において被告人に取消訴訟を起こす負担を課するのは適切ではないため、無罪を主張するときに事前に公定力を排除しておく必要はありません。
このような理由で、公定力は刑事裁判で効力を発生しません。
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