強制執行の存在理由
行政法上の強制執行とは、法令や行政行為によって課せられた義務が課せられた場合に、将来に向かって強制的に義務の実現を図ることをいいます。
しかし本来、権利の実現のための強制力の行使(強制的義務の履行)は、裁判所にのみ認められる(司法的強制)、という「自力救済の原則」のことです。
どうして行政が強制力の行使を認められているのか?
それは、行政庁がいちいち訴訟を提起し、裁判所による司法的強制を待っていたのでは、行政の目的を早くに実現することができないからです。
よって、行政上の強制執行は「自力救済の原則」と「司法的強制」の例外といえます。
また、強制力が働きますから法律の根拠は必要です。
つまり、行政上の強制執行とは、国民が行政に対して義務を課せられているときに、国民が義務を自発的に履行しなければ行政が自力で強制的にその義務を履行させること、といえます。
強制執行の種類
行政上の強制執行には、@代執行、A執行罰、B直接強制、C強制徴収に分類されます。
@代執行
代執行とは、他人が代わってすることができる作為義務(代替的作為義務)が履行されない場合に、行政庁が自ら、または第三者が義務者のするべき行為を代わって行うことをいいます。
また、履行に要した費用は義務者から徴収します。
これは、行政代執行法として定められていますので次の項目で詳しい説明をしています。
A執行罰
執行罰とは、過料を課することによって義務者に心理的圧迫を加えて義務を履行させることをいいます。
現在は砂防法36条の場合のみ、認められています。
「罰」という名がつきますが、あくまで強制執行の制度の一つです。
また、過料による徴収のため、執行罰は義務が履行されるまで繰り返し課されるといえます。
過料:罰金でなく、何度でもお金をとることが可能
B直接強制
直接強制とは、義務を履行しない場合に、義務者の身体または財産に直接に実力を行使して、義務の履行があった状態を実現する方法です。
即時強制も、身体または財産に直接力を行使しますが、義務の不履行を前提としている点で違います。
例えば、違法駐車された車について移動命令を出した上で移動する場合は直接強制となります。
一方、運転者がいないために移動命令をせずに移動させる場合は即時強制となります。
直接強制の問題点として、身体や財産に直接実力を加える強制方法であるため、人権侵害のおそれが大きく、現在は法律が認めている直接強制の例はわずかです。(成田空港の安全確保に関する緊急措置3条8項、学校施設の確保に関する政令21条など)
つまり、他の手段で目的の達成ができるときは直接強制を採用することができない、ということです。
C強制徴収
強制徴収とは、義務者が※1金銭納付義務を自ら果たさない場合に、行政機関が義務者の財産に強制力を加えて義務が履行された状態と同様の結果を実現することをいいます。
いわゆる、滞納処分といいます。
※1.金銭納付義務は、租税以外でもあります。
例えば、水道料金の徴収などのような地方自治法ではないものです。
行政上の強制執行ができない場合
行政上の強制執行ができない場合、@刑罰を科す、A行政的措置、B司法的強制、により義務の実現を図ります。
@刑罰
飲食店営業停止命令のようなものは不作為の義務であるため代執行ができません。
よって、こういう場合には法により刑罰が科されるような規定が作られています。
例えば、食品衛生法55条による営業停止命令は不作為のため代執行できません。
代わりに違反した者は、食品衛生法71条によって刑罰を科せられます。
このような規定を定めることで、国民はできる限り刑罰を科せられることを避けようとするため、営業停止命令に従って停止義務を果たすことになります。
ちなみに、行政に関する法律には刑罰についての定めが置かれることが多いです。
A行政的措置
例えば無免許運転した者は、運転免許試験に合格しても、免許の拒否や免許の保留といった制裁を受けることがあります。
よって、行政レベルの措置により義務の履行が促される場合があります。
B司法的強制
ここでは有力説についていいます。
司法的強制を求めることができるのは、行政上の強制執行が法律で定められていない場合です。
逆に行政上の強制執行が法律で定められている場合、司法的強制を求めることはできません。
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