役に立つ法律の情報・実用法学-行政法、民法など、大学課程の法学

撤回とは

 

撤回とは、成立した段階で瑕疵がなく有効に成立した行政行為の効力を、その後に発生した事情(後発的事情)を理由として、処分を行った行政庁(処分庁)が将来に向かってその効力を失わせる意思表示をすることをいいます。

 

例えば、有効に自動車運転免許を交付したが、その後違法運転をしたため取消されること。
これは撤回にあたり、将来に向かって効力を失います。
また、撤回にも行政行為が自由にできるかどうかについて、授益的行政行為か、侵害的行政行為かによって考えが変わります。

 

 

授益的行政行為の撤回

 

授益的行政行為の撤回には、義務違反に対する制裁としての撤回、公益上の必要のための撤回、要件事実の事後消滅の撤回、という3つの撤回があります。

 

 

義務違反に対する制裁としての撤回

 

これには、交通違反による自動車の運転免許の撤回などのような場合にあたります。
有名な判例として以下のようなものがあります。

 

・菊田医師赤ちゃん斡旋事件

 

裁判所によると、義務違反に対する制裁としての撤回は公益に適合しない状態が生じた場合、法律の根拠は必要としないとしています。
一方で相手方に不利益を生じさせることになるから、法律の根拠は必要だ、とする学説もあります。
また、法律の根拠は必要ない、といっても比例原則と合わせて考えなければなりません。

 

もし10km/h超過スピードのような軽い違反運転によって運転免許を撤回された場合、これは比例原則に反します。

 

このように、撤回を行うかについて、法律の根拠は必要ありませんが、生じた事情や行政庁の関わりの目的などを考慮しなければなりません。

 

 

公益上の必要のための撤回

 

これには、公物の使用許可の撤回のようなものがあたります。

 

例えば、以下のような事案があります。
中央卸売市場内の土地の使用許可を公益上の理由で撤回された。
そのため、土地使用者が損失補償を求めた。

 

これに対する裁判所の判断は、授益的行政行為であっても撤回する必要がきわめて高い場合は撤回しうる。
公物の占用許可のような授益的行政行為をもっぱら公益上の理由で撤回する場合、相手方に生じた不利益を当該私人に負担させることは公平に反する
このような場合には、相当の補償をするべきである。
法律に規定を欠く場合でも、同様の事案につき補償規定をおいている国有財産法の規定(19条、24条)を類推すべきである、としています。

 

つまり、本来の行政目的のために必要ならば撤回されるなら、法律の根拠は必要ありません。
ただし、そのような場合は相手方がうけた損失を補償をしなくてはならないといけない、ということです。

 

 

要件事実の事後消滅による撤回

 

これには、製造・販売などの承認を受けた薬品や化学的食品添加物が重大な副作用を持つ、あるいは人の健康を損なうものであると判明した場合、のようなものがあたります。

 

有名な判例として以下のようなものがあります。

 

・福岡スモン訴訟

 

裁判所によると、このような場合は法律の根拠なしに撤回が許されるばかりか、撤回が義務付けられる場合もあります。

 

 

侵害的行政行為の撤回

 

侵害的行政行為の撤回は、通説によると法律の根拠がなくても行政庁は自由に撤回をすることができるとされています。

 

しかし最近の有力説では、羈束行為としての侵害的行政行為、例えば課税処分のような裁量する余地のない行為は、法律に定められた必要な条件が実際に存在する(要件事実がある)限り撤回することはできないとされています。
また、裁量行為としての侵害的行政行為、例えば営業停止命令のような公益のため必要か判断する行為は、公益上必要のなくなった場合に撤回することができるとされています。

 

 

職権取消と撤回の違い

 

職権取消は、@行政行為が成立した時に瑕疵があり、A権限のある行政庁が、B原則として成立した時にさかのぼって行政行為を取消し、することです。
それに対して撤回は、@行政行為が適法に成立した後に発生した事情によって、A処分を行った行政庁が、Bその事情が発生した時以降の行政行為の存在を取消される、ことです。

 

職権取消

 

撤回 

 

 

よって取消・撤回の違いをまとめると、

  取消権および撤回権者 原因 効力
職権取消 権限ある行政庁 成立時に瑕疵 遡及的に取消し
撤回 処分を行った行政庁のみ 成立後の公益不適合 将来的に効力を消滅

 

 

 
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